インタビュー第 3 弾
神奈川県 臨床検査医学の専門 右田先生

第3弾は、聖マリアンナ医科大学で臨床検査医学を専門とされている、右田王介先生にお話を伺いました。

臨床検査医学とライソゾーム病について詳しくお聞きしました。


目次

右田先生と専門分野

まずは、自己紹介をお願いします。

聖マリアンナ医科大学病院 遺伝診療部の右田王介(みぎたおおすけ)です。臨床検査(※1)部門の教員として働いており、患者さんへ提供される検査のことを専門にしています。


※1 血液や尿、脳波や心電図など、人体に対して行う検査


右田先生の所属されている「遺伝診療部」について教えていただけますか?

私が所属する遺伝診療部は、さまざまな診療科の先生が所属をして、遺伝が関わる疾患について、診断から治療まで取り扱う診療科横断的な部署です。遺伝が関わる疾患は、複数の臓器にわたって症状が出現したり、経過とともに症状が変化することがあったりすることがあります。大学病院のような大きな病院では、各医師は臓器別の専門家として診断や治療を行うことが多くなってきましたが、そのような医療体制では遺伝性疾患には十分に対応ができない場合があります。そのため、患者さんへ様々な診療科と連携をとりながら医療提供を行うために、遺伝診療部という部署が診療を支援しています。また、遺伝が関わる疾患では、ご家族が同じ疾患をわずらう場合もあります。患者さんや、遺伝が関わるかわからないが家族にあった疾患に不安があるという方への情報提供も行うことが役割になります。私自身は臨床検査センターとの兼務もしているので、遺伝性疾患の診断に関わる検査実施の前に、疾患や検査についての情報をお伝えする役割を担うこともあります。

さらにお聞きしたいのですが、右田先生ご自身が患者さんと面会する機会はあるのでしょうか?

検査を専門にしているというと、患者さんと直接会うことが無いように感じるかもしれませんが、私の場合、2つの役割でお会いすることがあります。

1つ目は、先ほどお話しした遺伝診療部のスタッフとして遺伝診療に関する外来を担当しています。遺伝学的検査や遺伝性の病気に関して、通常の外来では十分なお時間をかけて質問をうけたり説明したりすることは難しくなります。疾患のことや初めて遺伝子検査を受けるとき、親子やきょうだいのことなど…患者さんご自身だけでなく、ご家族の方からも相談いただけるように長めに時間をとって、お話を伺う機会を作っています。

2つ目は、私は小児科医でもあるので、小児科外来で遺伝性疾患の診療を行うときです。遺伝診療部の仕事とは少し異なるのですが、遺伝が関わる疾患を中心に、外来で診療を行うことがあります。そのときに、患者さんと実際にお会いしています。

難病分野での患者さんの声

右田先生が患者さんからよく相談されることがありましたら、教えていただけますか?

お会いする患者さんは、疾患や年齢層、私自身の役割も様々なので、よく聞かれることを1つには絞れないですが…遺伝性疾患の場合、「どうしてこの病気になったのか」「この病気になることで何が起こってしまうのか」など、病気の具体的なイメージについてご質問をいただくことがありますね。

確かに、遺伝子の病気や難病は、特に病気に対するイメージが湧ないところがありますね。このような質問を受けた際、右田先生が心がけていることはありますか?

難病分野での患者さんの声

写真:板橋雄一

できる限り、話をよく聞くようにありたいと思っております。もちろん、そうありたいということであって、十分にできていないかも多いかもしれないのですが、どうして質問をその質問をされているのか、なにを不安に感じられているのか、来院された方が質問をされた背景を汲み取れないと、その質問を通して実際に求めていることがわかりません。可能な限り、お話しを伺うようにしています。

また、患者さん(または、ご家族の方)との認識を合わせることが大切です。医師は患者さんのお困りになっていること、個別の症状や生活の状況を十分にわからないですし、患者さんやご家族は病気の状態や治療のことについて、医療側とは異なった認識や理解をしていることがあります。こうした状況についての認識が違っていると、お互いの話が噛み合いません。もしかしたら、医師は疾患のメカニズムを知っていても、症状については、患者さんの方がよく知っているかもしれません。話を聞きながらお互い認識を合わせていくことが必要だと私は考えています。

ライソゾーム病への関わり方

ライソゾーム病について質問させていただきます。右田先生は、ライソゾーム病の診療や研究にどのような関わり方をされているのでしょうか?

小児科の一員として、診断や治療に関わっています。診断あるいは治療を進める上で、医療スタッフとともに一緒に方針を考えています。また、私の場合、臨床検査を通して疾患に関わることも大事な役割です。臨床検査の医師として、どのような検査が必要であるのか、あるいは検査の結果をもとに、「こういう治療法がありますよ」「この検査を追加してみてはどうか?」と伝えて、よりよい診療に繋げることも役割です。

ライソゾーム病は早期診断が重要であり、どのように検査を選択するか、あるいは先ほどもお話したように、必要に応じて患者さんと直接会って説明を行うこともあります。

そのほかに、ライソゾーム病に関して活動されていることはありますか?

違う角度からの関わり方として、ファブリー病(※2)の早期発見を支援する検査の開発に取り組んでいます。腎臓や膀胱になにか問題があるかどうか、尿沈査検査と呼ばれる尿を調べる検査があります(※3)。これは、尿に含まれる赤血球や白血球、細菌などの成分を顕微鏡で観察して、腎臓や尿路系の病変を調べる検査ですが、臨床検査技師や専門の医師が、何百何千もの検体を見て、その形がどのような状態にあり、そしてどのような症状や疾患に当てはまるか検討していく手法です。ただ技師や医師が、どのような変化があるのか知っていなければ判定できませんし、そこで、技師の方と協力して様々な尿の画像をあつめ、腎臓が障害されるファブリー病の患者さんで、その特有の変化を捉えるAIを考えています。これは、尿沈渣の画像をコンピューターに学習させて、ファブリー病ではないか、見逃さないように支援をするような仕組みにつながります。AIというと大仰に感じるかもしれませんが、このような支援システムが確立されて、早期の診断に繋がるよう貢献していきたいと考えています。

ライソゾーム病への関わり方

写真:板橋雄一

※2 ライソゾーム病のサブカテゴリに分類される疾患の1つで、ライソゾーム病の中でも患者数が一番多い疾患

※3 沈査は、数値のデータではなく、細胞や組織の形を見て判断をする検査

ライソゾーム病の早期発見というと、拡大新生児スクリーニング検査が考えられていますが、この検査についてご説明をお願いできますか?

医療の進歩によって、早く発見して適切な治療を受けることができれば疾患の症状や、引き起こされる問題を改善できる疾患がふえてきました。適切な検査手法や治療、あるいは対処法がある疾患の患者さんを、できるだけ早く拾い上げるための取り組みのひとつが新生児スクリーニング(※4)です。最近では、たとえば、新しい取り組みとして難聴のスクリーニング検査や母子健康手帳にある便色カードなどを見たりされているかもしれません。また、採血で行う検査を中心にした取り組みには、『新生児マススクリーニング(※5)』事業があります。これは都道府県や政令指定都市が実施主体となり、日本全国公費負担で受けることができます。具体的な検査としては生後4、5日目のあかちゃんたちから採血をして、20種類ほどの主に先天代謝異常疾患等の検討を行うものです。


※4 新生児とは生まれてまもない赤ちゃんのことで、出生直後から生後228日未満のあかちゃんのことを指します。

※5 生まれたばかりの赤ちゃんが、将来病気にかかる可能性があるか、早期に検査する方法。血液を採取し、数十種類の遺伝子異常を調べる検査。20疾患が対象。

ライソゾーム病への関わり方

写真:板橋雄一

これに対して、拡大新生児スクリーニングは、公費負担の事業の対象となっていない疾患への新しいスクリーニングを指しています。実施する検査機関や医療施設、あるいは地域によって異なった取り組みがなされており、検査費用はご家族が負担する自費の検査という位置付けですが、地域によっては各地方自治体の公費で助成される場合もあります。最近では、脊髄性筋萎縮症や原発性免疫不全症候群の一部を対象とした検査は国と自治体による実証事業として公費助成も拡大しています。ライソゾーム病の一部では、こうした拡大新生児スクリーニングの対象のひとつとして検討が増えています。(※6)

現在、新生児マススクリーニングは、出産時にほとんどの方が受ける検査となっています。一方で、拡大新生児スクリーニング検査は、その親が希望する場合のみ…従って、ライソゾーム病や新生児スクリーニングの重要性、そして検査を知らないと、“検査を受ける”こと自体が選択肢になることも難しいものです。まずは、疾患を皆様に知ってもらうこと、そのためには情報発信が重要でしょう。病気のこと、検査のことを親御さんやそのご家族に知ってもらうことが必要になります。


※6 拡大新生児スクリーニングには、ライソゾーム病の中でも特にファブリー病、ポンペ病、ムコ多糖症1型・Ⅱ型が含まれることが多い。

今後の展望

右田先生の今後の展望をお聞かせいただけますか?

将来の医療では、疾患という問題に向けて、患者さんや家族と医療スタッフとが現在よりもさらに、一緒に取り組むようになると言われています。希少な疾患あるいは遺伝の要因がかかわる難病は、治療や対応が改良をつづけており、様々な医療支援を活用しながら歩んでいく時代です。医療は、誰にとってもひとつの正解があるというものではありません。場所と時間を設けて、医療スタッフとご本人やご家族と落ち着いた状況で必要な情報を持ち寄ってお話しする機会が必要だと考えています。疾患そのものや検査に対する不安、どのように過ごしていけばよいのか、あるいは、どのように過ごしていきたいのかという要望、あるいは病気や治療に関する疑問など、話しあえる環境を作っていくことが、私の目標です。

さらに、新生児スクリーニングを多くの人に知ってもらい、またその内容を拡充し、さらに様々なアイディアを駆使して、未診断の方々が、診断と治療につながる臨床検査の支援を通して、よりよい医療を提供していきたいと考えています。

この記事を読んでいる方に向けてメッセージをお願いします。

患者さんは、病院に行くとどうしても聞きにくい雰囲気を感じて、思っていることを話すことができないと聞きます。でも、患者さんの気づきやお感じになっている不安は今ある問題の解決のヒントになります。そうした問題を解決していくためには、お互い言葉にすることが大切だと考えています。

私も患者さんのことを知りたいですし、患者さんも積極的に質問をしていただきたいと考えています。しっかりと話を聞いたうえで、患者さんが困っていることを一緒に解決していきたいと思います。私たちと一緒に、歩んでいきましょう。

今後の展望

写真:板橋雄一

右田先生、本日はありがとうございました。



〒216-8511 神奈川県川崎市宮前区菅生2-16-1
学校法人 聖マリアンナ医科大学
大学病院 遺伝診療部 部長
臨床検査センターセンター長
右田 王介 先生

インタビュー・作成
一般財団法人 日本患者支援財団 運営事務局