2026/9/14 公開

東京慈恵会医科大学 小児科学講座 准教授
東京慈恵会医科大学附属病院 小児科 診療副部長
先天代謝異常症を専門とし、ファブリー病をはじめとするライソゾーム病の診療に長年携わる。
東京慈恵会医科大学附属病院では、ライソゾーム病の診断・経過観察や酵素補充療法を行う代謝外来のほか、ファブリー病のシャペロン療法外来、遺伝性疾患に関する小児遺伝外来などを担当している。
略歴
1996年 東京慈恵会医科大学医学部医学科 卒業
2009年 東京慈恵会医科大学 小児科 講師
2019年 東京慈恵会医科大学 小児科 准教授
現在 東京慈恵会医科大学 小児科学講座 准教授/東京慈恵会医科大学附属病院 小児科 診療副部長
「ファブリー病は治療できる疾患になった」
診断体制づくりから歩んできた小林正久先生
「手足の先が、熱したフライパンに押し付けられているように痛む」
ファブリー病の患者さんの中には、小児期からこのような強い痛みを経験する方がいます。
しかし、採血や尿検査では異常が見つかりにくく、「汗をかきにくい」という症状も本人が自覚していないことが少なくありません。症状がありながら診断にたどり着くまで、長い時間を要してきた病気です。
東京慈恵会医科大学で先天代謝異常症、特にライソゾーム病の診療に携わる小林正久先生が、
ファブリー病の診断に本格的に関わり始めたのは2000年頃。
治療薬が国内で使われるようになる前、診断のための体制も十分には整っていない時代でした。
小林先生は、アルファガラクトシダーゼAの酵素活性測定やGLA遺伝子解析に取り組み、
約10年間で約250例のファブリー病患者さんの診断に関わったといいます。
診断する仕組みをつくるところから、女性患者の診断、治療を長く続けるための工夫、子どもたちの学校生活、成人期への移行、新生児スクリーニングまで。
20年以上にわたりファブリー病の診療の変化を見てきた小林先生に、
これまでの歩みと、患者さん・ご家族にいま伝えたいことを伺いました。
〇女性を「保因者」とだけ捉えない――男女で異なる診断の難しさ 🔏
〇ファブリー病の二つの治療法と、「続けられる治療」を支える工夫 🔏
〇学校生活から成人期へ――治療を続けながら日常を広げる 🔏
〇新生児スクリーニングがもたらした、新しい早期診断の課題 🔏
小林先生とライソゾーム病との縁は、医師になってから突然始まったものではありません。
子どもの頃にご自身の喘息について診てもらっていた医師が、その後、小林先生が医学部に在学している間に教授となり、
ライソゾーム病を専門としていたことが一つのきっかけでした。
その恩師から研究テーマを与えられたとき、小林先生はこんな言葉をかけられたと振り返ります。
「お前の喘息は俺が治してやったんだから、俺のところで研究しろ」
1996年に医師となった小林先生が、ファブリー病の診断体制づくりに本格的に取り組み始めたのは医師になって数年後、2000年頃でした。当時はファブリー病の酵素補充療法の治験が始まり、治療薬が世に出ようとしていた一方で、保険診療の中でファブリー病を診断するための体制は十分に整っていなかったといいます。
「治療薬ができても、患者さんを診断できなければ治療につなげられない」。
そこで研究テーマとなったのが、ファブリー病の診断と自然歴の研究でした。
白血球中のアルファガラクトシダーゼA活性の測定と、GLA遺伝子解析を行いファブリー病の診断体制をつくることになります。
2000年から2010年頃まで、小林先生は全国各地から寄せられる検体を調べ、約250例のファブリー病患者さんの診断に関わりました。
当時は診断できる施設が限られており、小林先生によれば、学会でファブリー病の発表を見ると、ほとんどに自分の名前が入っていたほどだったそうです。
多くの患者さんと家族を診ていく中で、もう一つ気になったことがありました。
男性患者さんの母親に、心肥大や不整脈などの症状がみられることです。
当時、女性は「保因者」と呼ばれることも多い時代でしたが、実際には女性にも症状が現れる。
小林先生はこの点を研究し、2008年には日本人の女性患者の自然歴について報告しました。
診断する方法を整えるだけでなく、「誰を患者として診ていくのか」も見直していく。
その積み重ねが、その後のファブリー病診療につながっていきました。

診断する仕組みができても、患者さんがそこへたどり着かなければ病気は見つかりません。
ファブリー病の診断を難しくしてきたのは、小児期に現れる症状の「見えにくさ」でした。
小林先生が小児期の代表的な症状として挙げるのが、手足の指先や手のひら、足の裏などに生じる「四肢末端痛」と、「発汗障害」です。
どちらも本人の感覚に左右される症状で、一般的な採血や尿検査だけでは異常として表れにくいといいます。
四肢末端痛は、大きな関節ではなく、手足の先端に強く現れることが特徴の一つです。
入浴や発熱、運動などで体温が上がったときに増悪し、2〜3時間続くこともあります。患者さんの中には、その痛みを「熱したフライパンに手を焼き付けられているよう」と表現する方もいるそうです。
ところが、検査で原因が分からないため、成長痛と考えられたり、リウマチなど別の病気が疑われたり、訴えそのものが十分に理解されなかったりすることがあります。
小林先生は、世界的には症状が出始めてから診断まで平均15年ほどかかるという報告があると説明します。
もう一つの発汗障害は、さらに気づきにくい症状です。「汗をかきにくいですか」と聞いても、本人は生まれたときからその状態で過ごしていたり、家族にも汗をかきにくい方がいることから、自分が周囲より汗をかいていないことに気づいていない場合があります。
そこで小林先生が大切にしているのが、症状名ではなく、生活の中の具体的なエピソードを尋ねることです。
「夏の暑い日に、汗が滴るほど出たことがありますか。お風呂は好きですか。体育の時間に、体に熱がこもって手足が痛くなることはありませんでしたか」
こうして聞いていくと、「夏でも汗はうっすら湿る程度だった」「熱いお風呂に入るとのぼせるので、長風呂が嫌いでシャワーの方が好きだった」「幼稚園の頃、夏になると微熱が出てよく早退していた」といった記憶が出てくることがあります。
本人にとっては当たり前だった日常が、診断の糸口になるのです。
小児期にこうした症状を繰り返す場合、小林先生は、まず小児科に相談することを勧めています。
ただ、最初の受診でファブリー病が疑われるとは限りません。
何度か受診を重ねた後に「何かおかしい」と考えられ、専門医へ紹介されるケースもあるといいます。
近年は啓発が進み、症状から10代で診断される患者さんも増えてきました。
一方で、現在も多いのは家族歴をきっかけにした診断です。
祖母や親に心肥大や不整脈が見つかり、家族を調べた結果、子どもの診断につながる。
一人の診断が、家族の診断へとつながることがあります。
そして、家族を調べるときに欠かせないのが、男性と女性では診断の考え方が異なるという視点です。
小林先生が2000年代から向き合ってきた「女性患者の見えにくさ」は、現在の診療にもつながる重要なテーマです。
ファブリー病が疑われたとき、男性では白血球中のアルファガラクトシダーゼA活性を測定することで診断につながりやすく、GLA遺伝子解析を組み合わせて確認していきます。ところが女性では...
▼ここから先は会員限定です▼
ここまで、小林先生がファブリー病の診断体制づくりに関わった原点と、
検査では捉えにくい小児期の症状を、生活のエピソードから見つけていく診療について伺いました。
ここから先では、女性患者の診断が難しい理由と家族検査、酵素補充療法とシャペロン療法、治療を長く続けるための工夫、
学校生活から成人期への移行、そして新生児スクリーニングがもたらした新しい課題について、さらに詳しく紹介します。
※会員登録をいただくと、小林先生のインタビュー記事の続きを読むことができます。
プロフィール設定の”関心のあるもの”より「インタビュー」をご選択ください。
登録は、一般財団法人日本患者支援財団が運営する「かんしん広場」の会員登録ページで行います。
〒105-0003 東京都港区西新橋3丁目19−18
東京慈恵会医科大学 小児科学講座 准教授
東京慈恵会医科大学附属病院 小児科 診療副部長
小林 正久 先生
インタビュー・作成
一般財団法人 日本患者支援財団 運営事務局